Ups and Downs (4)

生命科学部 准教授:木村 修平

2001年9月11日に起きたアメリカ同時多発テロ事件以降、アメリカ社会の雰囲気はガラリと変わったように思えました。街のあちこちに”United We Stand”(我々は団結する)というスローガンが掲げられるようになり、ちょうど同年1月の大統領選で政権に返り咲いた共和党のジョージ・W・ブッシュ大統領の支持率は90%を超え、アメリカは強硬な姿勢で「テロとの戦い」に大きく舵をきろうとしていました。そうした変化を肌身で感じながら、私の留学生活は後半戦を迎えていました。

エミネムの歌に励まされた留学の後半戦

皆さんはエミネム(EMINEM)という歌手をご存知でしょうか?ミシガン州デトロイト生まれのラッパーで、白人でありながら黒人の音楽文化であるヒップホップの世界で活躍し、世界中でアルバムが大ヒットしたシンガーです。

2002年8月、半自伝的な主演映画『8マイル』の撮影を終えたエミネムは、ミシガン州立大学の講堂でサプライズ・ライブを行いました。同映画のテーマ曲である”Lose Yourself”(動画)はとてもカッコいい曲なのでぜひ聴いてみて下さい。

“Lose Yourself”の印象的なhook(サビ)は次のように始まります。留学生活の後半戦、私は何度この歌詞に励まされたかわかりません。

You only get one shot, do not miss your chance to blow
This opportunity comes once in a lifetime

留学は楽しいことばかりではありません。辛いことや悲しいことも起こります。なぜ遠い異国の地までわざわざやって来てこんなにシンドイことをやってるんだろうと何度も疑問に思いました。特に後半の上回生向け授業はおしなべて難しく、課題も多かったので、本当に卒業できるのだろうかと強い不安を覚えることもありました。

そんなときはエミネムの「こんな機会は人生で一度しかないぞ!」というメッセージを聴いて、私は「そうだ!今しかないんだ!がんばろう!」と気持ちを奮い立たせていたのです。

夢に何度も見る卒業の不安

2003年5月、ようやく私はミシガン州立大学を卒業することができました。それはもう本当に「ようやく」という感じで、満身創痍でゴールインした気分でした。トータルの成績は必ずしも優等とは言えませんでしたが、授業を1単位も落とさないと言う当初の目標だけは辛うじて達成しました。

これで卒業にまつわる不安から解放されると思ったのですが、帰国して社会人になってから何度も何度も私は「単位が足りなくて卒業できない!どうしよう!」という夢を見るようになりました。

夢はいつも同じなのです。私は講義に出るため社会科学部のおんぼろビルディングに行くのですが、教室には誰もおらず、私はひとりで取得単位の計算をしています。ところが、全部の単位を取得したはずなのに、どうしても足し算の結果が卒業要件単位数に届かないのです。

「あぁ、俺は何かの単位を落としてしまったんだ。卒業できると早とちりしてしまったんだ。また来学期に授業を受けないと…」

いつもここで目が醒めて、「俺はもうあの大学を卒業して今は仕事をしているんだ。よかった」と胸をなでおろすのです。

二十代のアメリカ、三十代のアメリカ

私はいま立命館大学生命科学部の教員として働き、UCD短期留学プログラムの引率で毎年春にアメリカを訪れています。

三十代になってから仕事でアメリカを訪ねていつも思うのは、二十代の留学時代にはしょっちゅう感じていたあの気持ちの昂り、ワクワク感が、正直に申し上げてほとんど感じなくなっているのです。やはり仕事としての海外出張と野心に燃える留学とでは、同じ国に滞在しても、全く別物なのだと思います。

それに加えて、やはり私自身の老化も関係していると思います。三十代後半になって、やけに涙もろくはなりましたが、驚いたりワクワクしたりする気持ちが衰えているように思います。悲しいことですがこればかりは仕方のない現象でしょう。

UCD短期留学プログラムに参加される二十代の皆さんには、アメリカというまったく新しい環境の中に身を置き、全身をセンサーにしてあらゆる刺激を感じ取り、そして全力で自分自身を表現してほしいと思います。それこそがプロジェクト発信型英語プログラムの実践(実戦)なのだと私は思います。

最後に、前掲のエミネムの曲の出だし部分の歌詞を引用して、私の連続エッセイの筆を擱きたいと思います。ぜひ訳してみて下さい。

Look, if you had, one shot, or one opportunity
To seize everything you ever wanted. In one moment
Would you capture it, or just let it slip?

今日まで読んでいただき、ありがとうございました。UCD短期留学プログラム4期生の皆さんのプロジェクトが実りあるものになることを期待しています!(おわり)